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2006年9月24日 (日)

摂食・嚥下(えんげ)訓練

言語聴覚士(ST)の仕事紹介の2回目は一見「それってなんでSTの仕事なの?」と思われる摂食・嚥下訓練についてです。実際私も言語聴覚士の専門学校に入ってカリキュラムを見るとかなりの時間割かれているので驚いた記憶があります。

そもそも大抵の人は「嚥下(えんげ)」という字を見て読めない人も多いと思います。嚥下(英語ではswallowingと言います)というのは飲食物や唾液といった口腔内にある物質を飲み込む反射運動のことを指します。つまり摂食・嚥下訓練というのは食べ物を口の中に入れる→咀嚼する→舌などを使って食物を1つの塊にする(専門用語では食塊という)→軟口蓋から咽頭へ送り込む→反射を使って食道へ送り込むという一連の動きを訓練することなのです。

アメリカでは言語訓練をする人と嚥下専門の訓練をする人に別れているケースもあるそうですが、日本では食べるところとしゃべるところは同じ、ということで言語聴覚士が訓練を受け持つことが多いのです(実際共通した訓練を行うことも多い)。場合によっては医師、看護師、歯科医、栄養士、理学療法士(PT)、作業療法士(OT)といった隣接する職域の人と組んでやることもあります。

医療の世界では嚥下障害が注目されてきています。それはQOL(Quolity of Life:生活の質)を高めるためにも口から食事をする、というのはとても大切なことだからです。また経口摂取は点滴などによる経管摂取よりも栄養の吸収がいいと言われています。

しかし人間は音声を操るという能力と引き換えに解剖学的には気管と食道が交差するという危険が生まれました。そのためうまく嚥下反射が働かないと気管に食物や唾液が入り込み、最悪の場合窒息したり肺炎を生じて命を落とすことになります。たまに家族から「どうして本人が食べたがっているのに食べさせないんですか?」というクレームが来ることがありますが、背景にこのような事情があるからです。人間にとって食事を摂る、というのは一歩間違えれば命に関る危険なことであり、本当に絶妙な自然の摂理の中で成り立っている動作なのです。

訓練の内容ですが、成人の場合と小児の場合とで異なってくることも多いので、今回は成人について書いてみます(小児の訓練についてはまた別の機会に書きたいと思います)。

成人の場合、大抵は食事を摂れていた人が脳血管障害のために麻痺が生じた、ガンなどで顎や舌などを切除した、といった理由でスムーズに食事が摂れなくなってしまったケースがほとんどです。そのため摂食や運動の再学習が主な内容になります。

訓練を始める前に本来はVF(レントゲンによる嚥下動作のビデオ撮影)の検査をすることが望ましいのですが、施設によってはすぐにできないことも多いため、ドクターの依頼があった時にできるだけ一緒に回診して嚥下反射の有無を確認してから始めていました。

訓練としては実際の食事を用いた直接訓練と、摂食・嚥下の運動を司る器官の運動機能を高めることを目的とした間接訓練に分かれます。食事に関しては食事の形態や量を検討し、栄養が足りない分をどう補っていくか医師や栄養士と相談していきます。入院しているケースでは病棟に入って実際に食事をしている様子を観察し、食事の姿勢、食器、食形態、一口量、食事環境、時間といった要素をチェックします。チェックしたことを看護師や家族と情報交換することも大切です(これがなかなか難しいことなのですが…)。

間接訓練ではマッサージも兼ねて大き目の綿棒などを使いながら口腔機能をチェックすることから始めます。大抵の場合歯磨きをしても食物が口腔内に残っていることが多く、それを確認することで色々な情報を得ることができるからです。次に顎、口唇、舌、歯、硬口蓋、軟口蓋、咽頭、喉頭を動かしてもらい、運動能力を確認します。

訓練ではアイスマッサージ(氷を用いて麻痺している場所を刺激して反射を促す)や口腔のマッサージを行った後、構音訓練で行っているような口腔を意識的に動かすエクササイズを行います。

本人のモチベーションや症状の状態によっても異なりますが、ゼリーといった嚥下しやすい食事であっても「口から食べられた」という喜びは本当に見ていて大きいものだと思います。最初は「こんなことをして何になるんだ?」といった態度を取られることもあるのですが、次第に成果が出てくると「好物を食べられるようになりたい」と意欲的になってきます。

言語聴覚士が嚥下訓練を行うには医師の処方が必要になります。もしも嚥下訓練を行いたい、と思った場合は病院で「嚥下訓練をしたい」という希望を医師に伝え、処方を出してもらうかリハビリに力を入れている病院へ紹介状を書いてもらってください。

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